保護猫の迎え方

保護猫を迎える心構え

保護猫を迎えるにあたり、まずは、保護猫を迎えることができる状況なのか、よく考えてみて下さい。

妊婦、高齢者、幼児がいる

一般的にあまり知られていないのは、猫にはトキソプラズマという妊婦の流産の原因となる感染症があるということです。

そのため、妊婦さんがいるご家庭には難しいです。

また、免疫力が低い高齢者や幼児がいらっしゃるご家庭にもあまりお勧めできません。

外から猫を保護するという事によって、咬まれたり、引っかかれたりすることもあります。

それによって人が亡くなる事もあります。

時間が取れない方

一人暮らしや共働きで仕事が忙しく、保護猫の世話をすることに時間の取れない方は難しいです。

夏や冬の猫にとって「暑すぎる」「寒すぎる」ときに不在時あるいは、就寝時に猫の為にエアコンやヒーターを入れることができるかどうか、ご自身のおかれている状況を考えてみてください。

経済的に余裕があるかどうか

成長や生活のための質のいいフードを与えることが出来る経済的に余裕がある事も大切です。

猫が生活可能なスペースも必要です。

但し、犬と違い猫は立体的に高いところに登ることも出来るので6畳ぐらいの広さに猫が登って休むことの出来る棚などがあれば十分です。

猫にとっての幸せ

私たち人間は猫に癒されていますが、猫にとって私たち人間と共に生活することは幸せな事なのでしょうか?

猫を共生する仲間、家族として迎い入れるにあたり、まず、猫は人間の子供ではない事を良く認識して下さい。

「猫」はあくまでも「猫」という生き物です。

猫はどのような生き物か考えたことがありますか?

猫の歴史、生態を知ることは猫がどのような生き物か知る事の重要な手掛かりとなります。

猫の歴史について

日本に生息している家猫は、大きさや外貌、遺伝子で探していくと、どうも北アフリカ大陸に位置するリビアから来たという事がわかります。

そこはサハラ砂漠を有する高温乾燥した砂漠地帯です。

ここに、猫が他の動物に比べて腎臓病になりやすい理由が隠されています。

この日本で突然飲み水がなくなった場合、最後まで生き残るのは、おそらく猫でしょう。

なぜなら、猫は水を脂肪という形で体中に蓄えています。

これは砂漠の乗り物として使われているラクダのこぶで良く知られています。

猫はラクダと違い肉食獣なので狩りをしなくていけません。

身体を俊敏に動かせるためにラクダのように一か所に脂肪を貯めるのではなく、体中にまんべんなく貯めることにより体を機敏に動かせる能力を手にいれました。

これにより、少ない水分でも生きていくことが出来ますが、腎臓には大きな負荷がかかります。

それにより10歳をこえる頃には30から40%の猫が腎臓病になります。

そして、砂漠という過酷な環境下では獲物は数に限りがあり、犬のように群れで移動しながら群れで狩りをするのではなく、一匹で身をひそめながら出来るだけ空腹になるのを抑えてじっと動かず、3日に一度ぐらい空腹になったら狩りをする形をとっています。

また、どのようにして、日本に猫が来たのでしょうか?

シルクロードを渡りやってきたといわれています。

穀物を食べるねずみや昆虫から穀物を守るために猫を迎え入れたと考えられています。

時代は1200年ほど前の平安時代が通説ですが最近の弥生時代の遺跡から猫の化石が発見された事により、弥生時代からすでに猫がいたのではないかと言われ始めています。

このように、猫という動物を見ていくと猫の習性がおのずとみえてきます。まとめると、

  • 猫は水をあまり飲まない。飲まなくても大丈夫。その代わり腎臓病になり易い。
  • 成猫になるとあまり動かない。
  • フードは基本的に少しずつ食べて一度に食べない。
  • 自分だけの時間が必要。
  • 完全な肉食獣。
  • 寒さに弱い。暑さに強いが28℃以上になると熱中症になる。
  • 表情が無いのと人に従わないので分かりづらいが犬ぐらいの知能はある。
  • 水が苦手。泳いだりしない。
  • 食べ物に神経質、鼻が詰まって臭いを確認できないと食べなくなる。

以上が猫という動物の特徴です。

保護猫を迎えよう

いよいよ保護猫を迎え入れる段階になってきました。

保護した猫が子猫だった場合、人が捨てたのか、母猫が置いていったのかによってかなり生存率が変わってきます。

私の経験上の情報(いすみ動物病院 院長田中)ですが、明らかに母猫が見捨てていった子猫は、約50%の確立で数週の内に亡くなる子がほとんどです。

はっきりしたことは分かりませんが、おそらく母猫は本能的に見抜いて健康的に丈夫に育つ個体を選択して育て、より確実に子孫を残す事に集中しているのだと思います。

【その1】保護した時に、最初にすべき事は何でしょうか?

体温を維持する事、食べさせる事です。

当院にもよく保護してすぐに洗って、それもよく乾かさずに来院される方がいます。

これは、体温を奪う最もしてはいけない事です。

ひどく衰弱した個体では低体温になり死んでしまう事もあります。

また、先ほどお話した通りそもそも猫は水が苦手です。

保護されてまだ慣れていないときに水で洗うことは、大きなストレスを受けることになります。

そのため、猫の体に危険なものが付着していない限りは洗ってはいけません。

そして、身体に触れて自分よりも冷たく感じた時はペットボトルにお湯を入れたものをタオルでくるんだ簡易的な湯たんぽを作って保温してあげて下さい。

猫の平熱は38.5℃ぐらいです。人より2℃ほど高いので触って冷たく感じる事は通常ありません。

先ほど登場した簡易ペットボトルですが、健康状態の良い子にも役立ちます。

自然の状態で母猫と一緒にいるはずの生後6,7か月までの子猫は自力では体温を維持することが出来ませんし、凄まじい成長をしているので体温維持の方までエネルギーが使われると直ぐに体力が枯渇して弱ってしまいます。

猫の最初の一年は人の18倍のスピードで成長しています。

一年間で人の18歳ぐらいまで成長して性成熟します。

ただし、凄まじい成長は1年目だけで2年目からは人の4倍ぐらいになりますが、、、

ですから成長にものすごいエネルギーが使われている事がイメージ出来たと思います。

なので、子猫自身以外に40℃ぐらいの熱源がある事がとても重要になります。

また、タオルの毛羽だった触感が子猫の精神を安定させることも分かっています。

湯たんぽを入れてあげることは重要になってきます。

 

【その2】次に重要なこと

食欲があるか自力で食べること可能なのかが重要になってきます。

一か月未満の乳児はミルクしか飲めませんペットショップや動物病院で入手出来ます。

必ず猫用のミルクを与えて下さい。牛乳は多くの子猫で消化出来ません。

2週齢ぐらいから歯が生えてきます。そのぐらいからは、離乳食を食べ始めます。最近は子猫用の離乳食も市販されています。

または、子猫用のドライフードをお湯または猫用ミルクでふやかしたものを与えて下さい。

食欲があるか手っ取り早く見る方法としてチュールを与えてみるのもいいです。

また、先程もお話した通り、鼻が詰まっている猫は食欲があっても食べないことがあります。

そのような場合は、舌の上にフードを乗せてみて下さい。食欲があればガツガツと食べ始めます。

 ここまでを30分ぐらいで確認して下さい。30分で確認している時に体温が低い、食べないということが分かったら出来るだけすぐに最寄りの動物病院に連れて行ってください。

その際、湯たんぽで温めながら連れて行きましょう。ここから先は、自宅ではできない事です。

 

【その3】動物病院でやること

動物病院では、体温が下がっていれば、保温を行いしますし、食べない場合は、低血糖や脱水になっていることが多いので症状に適した点滴剤を点滴します。

この後に行う事は、全身を見ます。

目、耳、口、皮膚の状態、四肢の関節、リンパ節、胸腔内の聴診など細かく診ていきます。

最後にノミ、ダニ、消化管内寄生虫の駆虫薬を付けます。

ただし、気を付けなくてはいけないのは、マンソン裂頭条虫という猫に寄生する最大の寄生虫が寄生しているときは通常の駆虫量の3倍を投与しなければいけません。

この寄生虫はカエルなどの爬虫類を猫が食べることによって寄生します。

私の住んでいるいすみ市では、自然が多く猫には最高のご馳走の小型のアマガエルが沢山います。

保護される猫の80%以上に、このマンソン裂頭条虫が寄生しています。必ず検便はしましょう。

そして、先住猫がいる場合は、猫エイズ、猫白血病のウイルスチェックをします。

どちらも、母猫が感染している場合、かなりの確率で腹中にいる間に感染します。

結果によっては自分以外の里親を探す事になります。

そして、2か月齢以上の個体によっては保護されてから一週間から10日後あたりの新しい環境に慣れたころに、始めてのワクチン接種となります。

【その4】まとめ 

保護して最初に重要な事は、保護した猫を生かすということです。

そのために必要なことは体温を維持すること、もう一つは食べさせる事です。この二つがキチンと出来ていれば必ず猫は生存します。

例え、骨折などの外傷があっても、猫風邪のような感染症にかかっていても死ぬ事はありません。

逆にどんなに健康状態の良い個体であっても寒い部屋で必要とされている量と質の食事が与えられないと死んでしまいます。

夏でも子猫以外の熱源となるものを近くに置いてあげて下さい。

2か月齢までの子猫は2~3時間おきに食事を欲しがるのでそのたびに与えて下さい。

厳しいことを言うようですが、このことが不可能であれば5~6か月までの子猫の里親にはなれません。

仕事が忙しくて時間が取れない方はこのような譲渡会を通して7,8か月以上の成猫の里親さんなってあげて下さい。

ここから先は、保護猫、一般的に猫を迎え入れた時と変わりません。それぞれの成長段階に合わせたケアをしてあげましょう。

保護猫を減らすには

まず、保護した猫は必ず避妊去勢をして下さい。

猫を人と同じようにより自然な状態ということで避妊去勢することに反対する方がいらっしゃいます。

しかし、現に目の前にいる保護猫が存在している理由は避妊去勢していない野良猫が存在するからです。

また、いすみ市のような田舎の猫に猫エイズ、猫白血病が蔓延し、減らない理由は、同じように避妊去勢しない事で、管理されていない猫の数が減らないからです。

猫という動物が太古にネズミ対策として海外から持ち込まれた以上、人の力でコントロールしなくてはいけません。

もともと過酷な環境下で生息していた猫は日本のように温暖な気候で水や食べ物が豊富にある環境下ではみるみる増えていきます。

猫の繁殖期は春と秋の二回あり、そして、ワンシーズン中に犬とは違い授乳中にも交尾をするので2回出産することも可能です。

また、人や犬とは違い交尾刺激排卵といって交尾の時に雄猫に雌猫が鼻や耳を咬まれることによって排卵します。

そのため、受精するのに一番いいタイミングで排卵するのでかなりの確率で妊娠します。

安産のお守りとされている犬よりも猫の方が安産で沢山の子供を産みます。

ご経験された方はご存じの通り野良猫をほっておくと1年もしないうちに大変な数に増えます。

このように猫が増えると猫にとっても人にとってもお互いに住みづらい環境になります。

初めの一歩として避妊去勢を徹底しましょう。可哀そうな命が増えるのを防ぎましょう。

海外にはシェルターの保護動物が全員、里親が見つかるまで、新たな繁殖を禁止している国もあります。

これを機会にご家庭で命の大切さを話し合って下さい。